実用化が始まる保険領域でのブロックチェーン【保険×ブロックチェーン #2】

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実用化が始まる保険領域でのブロックチェーン【保険×ブロックチェーン #2】

2019 年 3 月 - 5 min read

保険×ブロックチェーンの連載2回目です。

前回は、保険領域におけるブロックチェーン活用の概観を紹介していきました。しかし前回紹介したのはあくまで表層的な部分であり、活用事例の一般論でしかありません。

いよいよ今回から実際のプロジェクトを例に、保険×ブロックチェーンの可能性を探っていきます。

東京海上日動のブロックチェーン実証実験

2018年11月1日、日本の大手保険会社である東京海上日動が保険領域におけるブロックチェーンの実証実験を行い、実際に業務の効率化が確認されたとの報告を発表しました。

保険業界では、未だ取引において紙の書類を使う風習が一般的であり、IT化が以前から求められていながらも、情報の真性が何よりも重視されることもあってか、これまで思うように効率化が進んでいませんでした。

そんな背景のもと、東京海上日動はブロックチェーンの有用性に目をつけ、NTTデータと協同し、今回のプロジェクトを2017年の11月から行い始めました。実はNTTデータは、大手ITベンダーや決済機関、金融インフラ系のメンバーが結集したHyperledger Projectコンソーシアムに創設メンバーとして参画し、国内初の貿易業務のブロックチェーン実証実験を手がけるなどの実績をあげるなど、ブロックチェーンの普及に大きく関わっています。

それでは、そのプロジェクトとは具体的にどのようなものであったのでしょうか?

今回プロジェクトの対象となったのは、“外航貨物海上保険”の領域でした。外航貨物海上保険とは、国際間を輸送される貨物を対象に、その輸送中に被る損害を補償する保険のことを指します。そもそも複雑な取引の工数を必要とする保険商品の中でも、この外航貨物海上保険に関しては、その性質上、国をまたいで様々なステークホルダーを巻き込んだやり取りを必要とします。

例えば、仮に海外で貨物事故が発生したとしましょう。その際、保険証券の書類は貨物とともに流通しているため、必ずしも契約した保険会社が保険金支払業務を行うわけではありません。基本的には、輸入者が現地で事故通知から保険金の受領まで行えるよう、主に事故対応を行う拠点の海外クレーム代理店が保険金支払いの手続きを行います。

このため、海外クレーム代理店が、世界中に点在する貿易関連書類と最新の保険証券書類の収集、関係者との情報共有をいかに迅速かつ正確に実施できるかが、迅速な保険金支払い手続きを実現する上での課題となっていました。

要するに、1つの保険金支払いを行うために、様々なステークホルダーから各種データ・書類を代理店が集め、確認しなければならないというアナログな作業が大きな課題だったのです。

そこで、東京海上日動は業務の効率化を目指し、実際の保険金の支払い業務で必要としていたデータをブロックチェーン上で流通させて、欧州、米州、アジアの計 8 拠点の海外クレーム代理店ならびに鑑定会社へ速やかに共有し、保険金のお支払いプロセスに利用できるかを検証しました。

実証実験のイメージ(出典:東京海上日動、NTTデータ)

実証の結果、東京海上日動はブロックチェーンのセキュリティ性・効率性・実用性が認められたと発表しています。これまで最大1ヶ月超かかっていたやり取りは、1週間程度に短縮できる見通しだとのことです。この報告は海外の大手ブロックチェーンメディアにも多数取り上げられており、大手企業によるブロックチェーン活用の貴重な先行事例となっています。

スマートコントラクトを活用した事例

ここまで東京海上日動の事例を見てきましたが、前回の記事で、保険領域におけるブロックチェーン活用の切り口として、“参加者の範囲”、“活用する技術”、“革新性”の3つを挙げました。

そのうち参加者の範囲と活用する技術に関して、もう一度確認しましょう。

参加者の範囲:①保険会社内 ②保険会社間 ③保険会社・ベンダー間(エコシステム)

活用する技術:①分散型台帳 ②分散型台帳+スマートコントラクト

東京海上日動は、“保険会社・ベンダー間の範囲で、分散型台帳技術(データベース)を活用した事例”とも言えます。これだけでも既存の業務を随分と効率化させるものになりますが、海外には更にスマートコントラクトの活用を目指し動いているプロジェクトもあります。

iXledger

2017年初めのロンドンにて、iXledgerという会社が設立されました。イーサリアムのブロックチェーン技術を応用した仮想通貨IXTを発行し、IXTを取引通貨として新しい再保険・保険市場の創出を目指しています。

再保険とはいわゆる保険会社が加入する保険のことを指します。保険会社が大量の保険金を支払う際に、資金が足りなくなった場合に備えて加入するのが再保険であり、iXledgerは保険会社と再保険会社が契約するためのプラットフォームを設計しています。

iXledgerの最大の特徴として、契約の合意をスマートコントラクト上で行うため、仲介業者を不要にしています。従来の保険業界はこの仲介マージンにより大きな利益を得ていました。スマートコントラクトを用いればユーザーは理論上、即座に低価格で保険契約を結ぶことが可能になります。

iXledgerは現在BtoBの再保険領域にしか展開しておらず、実際の活動も始まったばかりですが、今後BtoCの一般向け保険の領域にも参入すると言われています。2017年8月に大手再保険会社のGen Reとも業務提携を発表しており、今後の発展が望まれます。

このような、スマートコントラクトを用いて保険の仲介業者をリプレイスする新たなビジネスモデルは、P2P保険やパラメトリック保険などいくつかの種類があり、保険業界の革新的モデルとして今注目を浴びています。最終回となる次回の記事では、ブロックチェーン活用により理論上可能と言われている、新たな保険ビジネスについてを考察していきます。

保険×ブロックチェーン実用化への期待

ブロックチェーンにまつわる今後の課題としてよく挙げられるものがあります。“スケーラビリティ”の課題です。一度に大量のトランザクションが集中した時に、現在のブロックチェーン技術では対応しきることができません。しかし、今回紹介した東京海上日動の取り組みのような保険・貿易取引のデータ共有は、Dappsゲームのように一度に大量のトランザクションが集中するものではありません。セキュリティ面や、チェーンの構築コストさえ乗り越えてしまえば、今すぐにでも実用化を目指せる領域であるとも言えるのではないでしょうか。

保険業界はそもそも事業を始めるために法律上の認可が必要ではあり参入障壁は高いものの、iChainやjustInCaseなど、日本でも保険領域でのブロックチェーン活用を目指すベンチャー企業が出てきています。

東京海上日動は、2019年に上記のプロジェクトを正式に実用化させていくことを目指しています。また多くのコンサルティングファーム、IT企業が保険領域のブロックチェーン実用化に取り組んでおり、来年にはいよいよブロックチェーン技術が一般市民の目に見えないところで実生活に活かされてくるのかもしれません。


参考