保険領域におけるブロックチェーンの未来を探る 【保険×ブロックチェーン #1】

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保険領域におけるブロックチェーンの未来を探る 【保険×ブロックチェーン #1】

2019 年 3 月 - 5 min read

金融・ゲーム・サプライチェーンなど、ブロックチェーンの活用が最初に見込まれている領域の中でも、IBM、アクセンチュア、デロイトなど有名外資系コンサルティングファームなどからひときわその活用が注目されている領域があります。”保険(Insurance)”の領域です。

IT コンサルティング会社 Cognizant が全世界の保険会社の役員・部長クラスの職員に行ったアンケート調査によれば、回答者の 86%が、ブロックチェーンは保険業に重大またはとても重大な影響をもたらすものと認識しており、ブロックチェーンが保険業を根本から変容させると考える回答者は 54%に上っていると言われています。

今回は、金融と一括りにされがちであり、十分なユースケースの理解が掴みにくい”保険”の領域においてのブロックチェーンの未来について、3回のシリーズを通してこれまでの事例を交えながら紹介していきます。

そもそも保険の仕組みとは?

そもそも保険の仕組みとはどのようなものでしょうか?

保険システムのコアとなる考え方は、一言で言えば、「多数の人から保険料を集めプールし、少数の被害者に支払う仕組み」に他なりません。お互いに助け合う“相互扶助”の精神を元に作られているシステムでもあり、見方を変えれば、自らの将来起こりうるリスクを考慮し、賭け金を支払っているとも言えます。

保険の歴史は古く、その起源は古代オリエントまで遡ると言われています。様々な交易が行われていたこの時代は、現代よりも天候など自然による影響を受けやすく、また盗賊のリスクもあったため、それらの損失に備えるための借り入れの制度が存在していました。

その後中世ヨーロッパの都市で組織された同業者組合である「ギルド」にて生命保険の制度がはじまったともいわれています。ギルド内では、仲間同士で仕事で困った時の資金援助や、病気やケガで働けなくなった時や、死んでしまったときの遺族への生活援助などをしていました。

日本において保険の概念は、明治期の西欧化の流れを受け福沢諭吉によって持ち込まれたとされています。1879年に日本初の近代保険システムを運営する会社として東京海上保険会社が設立されてから、140年近くに渡り大手保険会社によって現在の保険のシステムは運営されています。

長い歴史を持った保険の制度であり、その仕組みは我々の生活に必要なものであるとも言えますが、同時に、現在の保険のモデルには幾つかの課題が挙げられます。

まず、サービスの提供を受ける側に立てば、既存の保険システムは仲介業者によるマージンによって多くの金額を支払わされているという見方が出来ます。保険会社は当然ながら起こりうるリスクに対して安全に見積もった割合の保険金支払いを要求し、またその上に自社の人件費、マーケティング費、下請け営業会社への支払い費などを乗せていきます。そのため、保険サービスを購入する際にはそのサービスは自身にとって本当に必要なのかどうか、ユーザー側のリテラシーが求められます。いくつもの保険サービスに気軽に入ることは現時点では推奨されたものではありません。

また、保険業者の側から見ても、現在の保険サービス提供にはサービス加入希望者の審査であったり、事故・診断内容の調査・支払い時の監査など膨大な事務工数が必要となっています。

これらの領域において、上述した通り外資コンサルティングファームや保険会社の経営層などがブロックチェーン活用の有用性を認識し始めているのです。

保険×ブロックチェーン活用事例

保険領域におけるブロックチェーンの活用と一口に言っても、その応用の範囲は多岐に渡ります。具体的な個々の事例をただ追っても、業界の基礎的な理解が抜けていれば、それぞれの重要性を深く認識することなく知識を流してしまいます。そのため、まずは本記事において全体像から確認していきましょう。

損保ジャパン日本興亜総研による報告では、保険領域におけるブロックチェーンの活用は以下の3つの切り口に分類することができると記されています。

参加者の範囲:①保険会社内 ②保険会社間 ③保険会社・ベンダー間(エコシステム)

活用する技術:①分散型台帳 ②分散型台帳+スマートコントラクト

革新性:①non-disrupt ②disrupt

第1回となる本記事においては、この3つの切り口の概要についてを大まかに説明します。第2回の記事において1つ目と2つ目の切り口である”参加者の範囲”と”活用する技術”について、そして最後となる第3回の記事では”革新性”に焦点を当てて、一つ一つの事例を見ていきます。

参加者の範囲

参加者の範囲の切り口における“保険会社内”とは、既存のバックオフィス業務の効率化を目的とした活用のことを意味します。しかし、以下で紹介する他のものと比べると、導入は容易ではあるものの、信頼の置けない相手との円滑な取引を仲介者なしで実現できるという、ブロックチェーンの主要な利点を十分に享受するものではありません。

一方、“保険会社間”とは、これまで個々の会社で保有していたデータを、複数の保険会社間で共有し、サービス提供を効率化することを目的とするものです。B3i(Blockchain Insurance Industry Initiative)と呼ばれる団体の取り組みや、次回で紹介する東京海上日動の行った実証実験がこれに当たります。

“保険会社・ベンダー間(エコシステム)”とは、上の複数の保険会社間から更に発展させたものです。そもそも保険会社は、再保険会社・営業代理店・広告代理店・ブローカーなど、多岐に渡るステークホルダーを抱えています。これらあらゆる取引関係者とチェーン上にて情報を共有し、従来の煩雑な取引の効率化を目指すものになります。

活用する利点

活用する利点に関しては、①履歴の共有を目的とするものと、②履歴の共有だけでなくスマートコントラクトを用いた取引の自動化を目的としたものとの2つに分けることができます。

“分散型台帳”的活用とは、すなわち履歴の共有を目的とした活用法を指しています。真性なデータへのアクセスが何よりも重要になる保険業界においては、これだけでも従来のデータの照合や書類の複製などの業務を大幅に効率化することが見込まれています。

そして、その発展的なものとして“スマートコントラクトの活用”が将来的に視野に入れられています。従来のフローでは、被害を受けた人がその内容を保険会社に報告し、事実確認を保険会社が行った上で補償金が支払われるという手順を踏んでいましたが、それらがスマートコントラクト上で人の手を介さずに行われるようになるかもしれません。実際に飛行機遅延損害の領域において、フランス保険会社のAXAがイーサリアムのスマートコントラクトを用いた商品を既に発表しています。

革新性

ブロックチェーンの活用領域は、①既存の保険業務プロセスを合理化するもの(non-disrupt)と、②新しいビジネスモデルの創出あるいはこれまで拡大が難しかった保険を変容させ、拡大、発展させるもの(disrupt)、という切り口でも分類することができます。

上でこれまで紹介してきたものは、あくまでも”既存のビジネスを合理化するもの”でしかありません。保険×ブロックチェーンの領域において、最も市場に対するインパクトが大きいのは、ブロックチェーンにより可能になる新たな保険ビジネスの領域になるかもしれません。今後の発展が見込まれているディスラプティブな事例として、P2P保険、パラメトリック保険、オンデマンド保険、マイクロインシュランスなどが挙げられます。これらの領域については第3回の記事にて詳しく取り上げていきます。

まとめ

今回は保険×ブロックチェーンの導入として、活用事例の概観を皆さんに紹介しました。1つの業界におけるユースケースをじっくりと考察することは、ブロックチェーンの未来を探る上で有効な手段になり得ます。次回以降の記事にて、具体的に取り組みが始まっている事例についてを取り上げ、解説していきたいと思います。


参考